プロジェクト事例

Example
事例3:ラオスの開発問題
水力発電ダムと森林
水力発電ダムと森林が大きなイシューです。 水力発電ダムは主にタイに電力を輸出するために開発されています。国内で稼動中、建設中、もしくは具体的に計画が進んでいる9つのダムのうち、8つにおいて何らかの形で日本の援助が関わっています。計画中の23件で見ても、13に関与していることを考えると、日本の援助がラオスのダムに果たしている役割は非常に大きいと言えます。

社会主義国で、共産党にあたる人民革命党の一党支配が続くラオスでは、住民が政府のダム政策を公に批判することは難しく、かつこれまで近代的な開発がなされてこなかったラオスの農村部の人たちにとっては、ダムによって生活がどうなるのか全くイメージできないこともあって、タイのように影響住民がダム開発に対して社会環境面から強い批判をすることはほとんどありません。しかし、実際に完成したナムグムダムやセセットダム、トゥンヒンブンダムなどを分析すると、社会環境への影響は大きく、それに対して政府も援助機関も適切な補償や緩和策をとってきているとは言えません。更に、電力の唯一の輸出先であるタイは、現在電力の供給過剰状態で、ラオスのダムからの電力を買い叩ける状況にあります。ダムが社会環境影響を引き起こすことは自明ですが、更に本当に経済効果が十分にあるのかどうかも大きな疑問として提示されています。


国際的に最大の関心を集めているのが中部のナムトゥン第2ダムです。水没面積450平方キロ、予定発電能力1070メガワットで、そのうち995メガワット分をタイに輸出する計画です。90年代はじめから水没予定地の森林伐採を進めたため、自然資源に依存する自給的な暮らしをしてきた住民たちは生計手段を失いました。また、ダム以外の地域開発がほとんど計画されなかったため、住民はダムによる補償を頼るしかない状況に追いこまれています。世界銀行は2004年末から2005年初めの理事会で、このダム計画を支援するかどうかを決定する見通しです。過去10年にわたる「兵糧攻め」のような開発手法を世界銀行が認めるのか、重大な関心をもって国際社会が監視しなければなりません。

ダム計画に限らず、開発政策や個別事業による森林への影響は、自給的な農村の暮らしをリスクの高いものに変えていきます。土地や森林の管理を村に移譲する政策は、場合によっては村人たちの森林利用権を強化しエンパワーメントにつながる半面、トップダウンで行えば、実際の利用とかけ離れた土地区分となり、結果として土地や森林をめぐる紛争をもたらす危険があります。また、荒廃林と区分することで、企業がユーカリなどの産業用植林を進めることができますが、水分の吸収が早いユーカリが地域の生態系にもたらす影響や、企業の利益を優先する植林のやり方が地域社会に混乱を招くケースも出始めています。こうした事業にアジア開発銀行(ADB)が資金を提供しています。土地・森林政策が、村人の自然資源利用をどう変えているのか、そこに先進国からの資金がどのように使われているのか、長期的な視点での調査が必要だと考えています。

【参考文献】特定非営利活動法人 メコン・ウォッチ
http://www.mekongwatch.org/index.html